田坂広志先生著書「目に見えない資本主義」(2009年8月発行)から抜粋

以下、田坂広志先生著書「目に見えない資本主義」(2009年8月発行)から抜粋

実現のためには、

「操作主義」を捨てること。

すなわち「消費者を、企業の望む方向に操ろうとする発想」を捨てること。

(中略)

「操作主義」はどこから生まれてくるのか。

企業と顧客との関係を「対立的」に見る発想から生まれてくる。

すなわち、本来、企業と顧客との間に生まれるべき「共感」や

「感謝」「一体感」を大切にせず、

企業と顧客を、

「商品を売る側」と「商品を買う側」という対立的な関係として捉え、

さらには、顧客を「操作の対象」として見る発想。

(中略)

本来、日本型経営においては、

企業と顧客を「対立的」に捉える発想はなかった。

なぜなら、日本型経営の奥には、日本という国の文化があるからであり

その文化の神髄には、一つの言葉があるから。

「主客一体」(自分と他人を分離しない「自他一体」の心得)

そのことを象徴するのが、日本企業の現場において永く語られてきた

次の言葉であろう

「お客様は、我々の心を映す鏡である」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

社会における価値というものを論じるとき、

「客観的に評価できないものは役に立たない」と素朴に考えてしまう発想。

その発想こそが、我々の問題なのではないか。

 (中略)

社会において存在する価値を、

例えば「貨幣」という単一の「客観的尺度」で測ることが、

一体何をもたらしたか。

その行為によって、

我々は、社会に存在する「多様な価値」を多様な視点で見つめる力を

失ってきたのではないか。

その「尺度の単純化」こそが、

社会における「価値観の単純化」と「文化の単純化」をもたらしたのではないか。

もとより、「多様な価値観」とは、単一の尺度では測れないからこそ、

「多様な価値」と呼ぶのではないか。

(中略)

多様な価値を多様な尺度で評価する方法

インターネットの世界において生まれている。

例えば、ネット・コミュニティにおいては、

多くの場合、商品やサービスについての多様な評価が多様な形で提示されている。

例えば、アマゾンの書評は、五つ星といった「定量的な評価」も提示されているが

それぞれの評価者の個性的な文章による多様な評価がそのまま載せられている。

また、例えば、今急速に広がっているブログの世界では、自分と価値観の近いブロガーとトラックバックなどで結びつき、そのブロガーのコメントを参考にして意思決定や行動をするというスタイルが広がっている。

このように、いまだ極めて原初的な段階であるが、ネットの世界では、多様な価値を単一の尺度に落とし込むことなく、多様な視点で評価するという方法が広がっている。

すなわち、インターネットの世界では、多様な価値を評価するために「定量的な単一尺度」を生み出すという方向には向かっていないのである。

おそらく、こうした動きの向こうに、新たな方向が生まれてくる。

社会に存在する「多様な価値観」を、その多様性を損ねることなく、多様な視点から評価していくという方法が生まれてくる。