「感謝と貢献」第898日

『生き方働き方創造』

エシカルethical

エシカル(ethical)とは、「地球、人、動物、地域社会、伝統文化、将来世代など、ステイクホルダーを尊重(配慮)

した行動様式」を意味します。持続可能な社会を目指す上で必要不可欠な概念です。

 win-win-win(3方以上よし)の状態を志向するエシカル実践においては、工夫や革新が必要になってきます。その

工夫や革新こそが、創造性の源であり、強いストーリー性を生み出し、ひいては文化を創り出していくのではないでしょうか。

 

はしがき

 「エシカルって何だろう」

関西大学商学部の学生たちとともに、2016年春から取り組んできた『エシカル・ファッション・コレクション(エシコレ)』という

プロジェクトの一つが、この本の刊行だ。非エシカルな状況が世の中にはたくさんある。人や組織として当たり前のことだけれども

実現できていない「エシカル」という考え方やあり方に対して、皆と考える場をつくろう。それが、エシカルなファッションショーと

トークショーを組み合わせた『エシコレ』というイベントであった。関西大学梅田キャンパスにおいて、2016年12月11日(日)

にファッションを通してエシカルを考える1日を開催した。

 その後、エシカルを取り巻く現状や考え方をより多くの人に伝え、エシカルな社会を牽引するアントレプレナーシップを持つ人材

がたくさん育って欲しいといった思いをベースに、エシコレ・プロジェクトは継続した。『エシカルアントレプレナーシップ』という大胆な

書名には、そのような思いが集約されている。

 フェアトレードCSR,サスティナビリティ、ロハス、グリーン調達、ディーセント・ワーク、SDGs(持続可能な開発目標)、

SRI(社会的責任投資)、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資・・・。持続可能な社会をつくっていくために、たくさんの

概念・取組・行動基準が生まれてきている。こういった持続可能な社会をつくっていくための考え方・あり方をひっくるめて、

エシカルとくくった私たちは、エシコレを実施する上で何度も立ち止まった。

 エシカルかどうか、何をもって判断できるのだろう。」

 完全にエシカルな事業者など存在しない。パタゴニア社の創業者イヴォン・シュイナード氏も常々述べているように、我々は

生きてる限り、誰かに何かに負荷をかける。地球環境から少しずつ資源を搾取して生きている。どんなに環境基準に配慮して

も操業している限り、資源環境へダメージを与えながら事業を行っている。

 それが一つの現実ではあるが、それでもなお、課題があることを認識しながらもエシカルであろうと努める事業者が存在すること

も事実だ。少しでもより良い社会になるようにと、課題を抱えながらも努力している事業者たち、そういったエシカル志向の

事業者たちと一緒につくりあげたのが、エシコレである。学生たちは、事業者たちから多くのことを学びながら、イベントを形にして

いった。その学ぶ姿を見て、エシカルアントレプレナーシップを育む教育についても考えようとしたのが、この本の契機となっている。

 

P12 本書のエシカルについても、守りと攻めで分類する。エシカルな製品・サービスを例にとってみよう。中間(2015)は、生活者のみならず社会のことを考えてつくりだす有形・無形の商品・サービスことをソーシャルプロダクツと呼び、持続可能な社会に貢献するものとした。本書でエシカル・プロダクツと呼ぶものは、この定義と同じものである。中間(2015)があげている代表例が、エコ(環境配慮)、オーガニック、フェアトレード、寄付(売上の一部を通じた寄付)、地域の活力向上、伝統の継承・保存、障碍者支援、復興支援などに関連する「人や地球環境にやさしい商品・サービス」を指し、生活者のより良い社会づくりへの参加(社会貢献)を可能にするものとしている。

 エシカル・プロダクツという最終アウトプット自体は、新価値創造であり、社会へも自社へも正の効果を生み出しているため、攻めのエシカルととらえることができる。一方で、エシカル・プロダクツを生み出し提供するプロセス(バリューチェーン)においては、負を生じさせない、他者配慮の原則が貫かれる必要があり、守りのエシカル精神が必要とされる。原材料調達・生産・流通・消費者の使用場面・使用後の廃棄フェーズ等において、負を生じさせないという意味で守りのエシカルが必要だ。

 守りと攻めのエシカルに2分類してみると、特徴や課題が見えてくる。攻めのエシカルは可視化されやすく、わかりやすく、企業にとっては従業員の創造性やモチベーションを喚起させやすい取り組みである。一方で守りのエシカルは、可視化しづらく、わかりにくく、配慮しなければならないもので、企業にとっては負荷を感じやすい取り組みだろう。

 

本書におけるエシカル概念

本書のエシカルとは、企業倫理やCSRをはじめ類似概念を包括するものとして取り扱う(図表1-4)したがって、企業倫理やCSRの文脈下で論じられる、ソーシャルおよびサスティナブルという概念もエシカルに含める。

 そもそも倫理とは、「自己利益を超えた他者への配慮や尊重」を意味していた。ここでいう他者は、社会の構成主体であるステイクホルダーとらえることができる。したがって、倫理とは「自己利益を超えたステイクホルダーへの配慮や尊重」を意味している。

 本書では、この表現を、もっとカジュアルな形で定義する。本書のエシカルとは、「地球、人、動物、地域社会、伝統文化、将来世代などを尊重(配慮)した行動」を指す。

 以下では、これまでの検討をベースにして、本書におけるエシカル概念の特徴をまとめておきたい。

①汎用性が高い

 エシカルは、企業の行為だけでなく、消費者・生活者をはじめとするステイクホルダーの行為にも使うことが出来るため、汎用性の高い概念である。企業倫理親やCSRとはそこが異なる。

②包括的な概念

 エシカルには、企業倫理やCSRといった概念をはじめ、ソーシャル、サスティナブルといった意味合いも含まれる。持続可能な社会にチャレンジする上で必要不可欠な概念である。

③他の概念とコラボしやすい

 エシカルという言葉は、いろいろな言葉とコラボすることが可能だ。エシカル・ファッション、エシカル調達、エシカル・トレード、エシカル・ビジネス、エシカル消費エシカル・コンシューマー、エシカルな活動、エシカル・コード・・・・・・・・・といったように、多様な広がりをみせている。多くの言葉とフレンドリーな概念である。また本書では、エシカルを形容詞としてだけでなく名詞的にも使用する。

④実践的キーワード

 エシカルという概念を、より多くの人のエシカル実践を促すために使用する。電気をこまめに消す。ゴミをポイ捨てしないといった、身近なこと・できることからでよいので、多くの人に実践してもらってこそ、エシカルという言葉は生きる。

 本書では用いるエシカルとは、一人ひとりに実践してもらうための、実践的ワードとして用いている。どんな小さなことでもエシカルを意識して改善の一歩を踏み出してもらいたいという考えで、エシカルという用語をカジュアルに用いていく。

⑤守エシカルへの想像力と攻めのエシカルへの創造力

 エシカルについて、社会に与える負の影響を極力削減しようと努力する守りのエシカルと、社会への正の影響を与える攻めのエシカルと2分類した。企業や生活者一人ひとりが、守りと攻めの両面について意識してほしい。一人ひとりが、守りのエシカルへの想像力を働かせるとともに、攻めのエシカルを実現するために創造力を発揮していく必要がある。

エシカルの実践において強いストーリーが生まれる

 地球、人、動物、地域社会、伝統文化、将来世代などを尊重(配慮)して行動しながら利益を出していく活動には、地道な取組の継続と同時に工夫や革新が必要になってくる。その工夫や革新は、強いストーリー性を生み出す。